この食糧品店の主人は通がすきで暫くイタリーのマカロニ、フランスのマカロニ、云々をきかせた。私は、彼の雄弁の断れ目をねらって、
「ひどく殖えますか」
と訊いた。
「いや、フランスのマカロニはずっと殖えますが、このイタリーの方はそんなじゃありません。――直観[#「直観」に傍点]なすったところじゃ違いませんが、水分をふくむから召上りではあります」
 派手な旗を長く巻いて棒にしたようなマカロニを持って帰りながら二人は随分笑った。
「直観はいいわね」
「面白いんですね、なかなか」
 網野さんは濃い眉毛をもち上げるようにして笑った。いつも笑う拍子に、小さい金をかぶせた歯が一つちらりと見える。他の歯は大人の歯だのにそれだけ金色で一本子供のままに小さい。幼い娘だった時分、金歯にしてしてとねだって一本何でもないのに金で包んで貰ったのがそのままになっているのだそうだ。
「その歯、おかしくて可愛いいわ」
「いやだ――何だか小っぽけな癖に生意気らしいんですもの」
 その晩泊り、三人一つ蚊帳に眠った。その時、土曜日に何処かへ行きましょうと云った。

          二

 土曜日は四日で、あの大暴風雨
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