日帰ったばかりだのに、もう丸善に行った、そして
「ロシアの雑誌が来ていますでしょう。ジャール・プティツァとかっていう――あれ、始め三十五銭と間違えてひどくやすいから変だと思ってたら、弟が又見て来て三円五十銭らしいって云うんですもの……」
「ああ、あれは高いわ」
「本当に高い雑誌ですね」
そんなことを話して十時すぎると、おなかがすいて来た。
「だあれも、何にも食べたくないこと?」
「まだすかない」
「網野さんは」
「そんなでもないけど――」
「上ってもいいんでしょ? じゃあ何か考えましょうよ、サンドウィッチ拵えましょうか」
「サンドウィッチは網野さんがきらいでしょう」
「――いいものがある。マカロニ! マカロニをたべましょうよ。買って来るわ、ハインツの出来ているのがあるだろうから」
「私も行きましょう」
雨があがった桜並木の食糧品屋へ行って見た。戸がたっている。中で起きている気勢なので声をかけ、開けて貰った。鑵づめはなく、
「これがよろしいでしょう、お湯を煮たててお入れになれば直です、イタリーのですから品はいい品です。フランスのは太いですが、イタリーのは細くてずっとおいしゅうござんす
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