?」
 たべずに行っても平気かという意味できいた。石段が多いことで私をおどかそうとした友人であってみれば、その若い眼のはしに、栗ぜんざいというはり紙のある店を見ないで通ったわけではないだろう。琴平も面白いと思っている私は、栗ぜんざいに、いくらか興じてもいるのであった。
「――さあ、平気じゃないですね」
「そうなわけよ」
 どやどやと賑やかに、小さな店へ入った。小さい女の子もいそいそと一人前に椅子にかけて、さて、小さいお椀によそって出された、栗ぜんざいを一吸いして、私たちは、しんみりとおとなしくなってしまった。やがて、女の子が情けなさそうに、
「もういいの」
と母親にお箸をかえそうとした。私は、子供が甘いだろうと信じて、フーフーふきながら吸ったこころもちが可哀想で、
「じゃ、これはどう? きっと、これをたべながらのむと美味しいかもしれない」
と、お芋のおでんをとってやった。
 おでんのお芋は、黒芋で、大半黒くなっていた。
「じゃかえりましょうか」
 又提灯に灯を入れてその店から雨の往来に出た。商人は今日もやはりあくまで琴平流に徹底している。母と来たとき、食堂のようなところで親子丼をたべた
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