でない、するようには私自分で行ってするからとね……あんなに美くしくてやさしかった人をどうして……」
殿は泣きじゃくって居る童に云いつけて向うにやらせた。
涙の止まって気の狂いそうになった母君は何も云わず何とも考えることも出来ないで、ぼんやりとしたかおをして、泣きたおれて居る沢山の美くしい衣の色を見て居る。女達のかおは涙に白粉がはげていたいたしく見えている。
「そんなにおなきでない……あんなに美くしい人をなくしてしまったのは皆私達が悪かったばかりなんだから、ネー、そうお思いじゃあないかい。お前達の涙であの美くしい人の色をあせさせるといけないから――どうぞ」
そう云いながら自分も涙にぬれたかおを袖でかくしながら、
「母様、西の御殿にかえっておやすみあそばせ、あとは私がいい様にとりはからいますからネー」
わきに居る女に目くばせして、
「つれて行ってお上げ」
と云ったので、地味な色とはでな色の二つの着物はさびしいなにかの影を追う様に西の御殿へ細殿をつたって行く、西の御殿の女達は夢からさめた様にそのあとにつづいた。光君の部屋に居た女達は今更とりみだした様を気がついたように入ってしまった。
前へ
次へ
全109ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング