分でなくては朝の化粧もしないほどの光君の心を、物狂わしい人の心とは知りながらもこの上なく嬉しく思って居た。人なみ以上の心を持って居る人はその世話のしぶりにも人並以上のところが多かった。年とって世なれた乳母さえもその細く親切に気のつくところ、しずかな様子でよくききわけさせることなどはこの上なく感心して涙を流しては女の手を取ってよろこんで居るのであった。人々の人望はこの女二人の身のまわりに集って光君の話の出る毎に紅のことが賞えられた。
 けれ共女は若し光君がなおってしまった時に自分のつくした真心を思い出して呉れるかどうかと云うことが女の心をはなれることのない心配でもありかなしみでもあった。

        (十三)[#「(十三)」は縦中横]

 この世の中に効の有ると云われる祈り、まじないは金目をおしまずに行われた。広いむな木を一まわりしてやがて向うの山かげに消えて行くような読経の声や天井裏の年経たいたこの耳をふさいで身ぶるいする魔のものばらいの絃の音、そうしたしめった、重々しい声や音ばかりがこの館にみちてしまった。日に幾人となくみこや僧はその白かべの館を訪う、その度に人々は下にも置かぬ
前へ 次へ
全109ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング