。男君の心は乱れてどれがほんとうでどれがまぼろしとも分目がつかなくなってしまった。考えるでもなく涙をこぼすでもなくボンヤリと木の間にチラチラと見える灯の光を見て居た。遠くの方から足音が段々近づいて来る、そしてパタッと光君のわきで止った、そしてそっとすかし見る様にして、
「オヤ、マア、誰かと思ったら貴方だったのか、私はまた物化《もののけ》でもあるかと思った。私はこれから常盤の君の部屋に行くから貴方もおつき合いをなさいよ」
と云う声は兄君である。
「エエ」
気のぬけた様にそっぽを見ながら云う。兄君は傍にしゃがみながら、
「オヤ貴方は女の着物を持って居ますネ。誰の、紫の君んでしょう、だから私は貴方はまわり合せの好い日に生まれた人だと云うんです。たまにはじょうだんも云うものですよ、サ行きましょう」
片手ではしっかり衣をかかえ、片手を兄君に引かれて障子に入った。
「アラお珍らしい方が御そろいで行らっしゃいました、君様光君と御兄様と」
几帳のすぐわきで本を見て居た女がとんきょうな声で云う。
「オヤどうぞお入り遊ばしてとり乱して居りますが御許し遊ばして」
几帳のかげで常盤の君の声がする、沢山
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