いに占領してはげしい形容詞をもとめて居る、美くしいと云う感情を満足させる事は出来なかった。紫の君の何も思わぬげなおっとりした目を見たせつなに「今に私の人になる人なんだ」
と思った光君の瞳はもえるようにかがやき初めた、その光のあるその目の前には美くしい、可愛い、忘れられない紫の君の姿をやわらかく包んでかげろうがもえて居る。そのかげろうの戦《おののき》といっしょに光君の心もかるくうれしさにおののいて居る。夢のように、いつの間にか今日の名残の春鶯囀も終って、各々の前には料紙、硯石箱が置かれた、題は「花の宴」
 頭を深くたれて考え込むものもあれば色紙の泣きそうな手で遠慮もなくのたらせるものもある。書かれる可[#「可」に「(ママ)」の注記]は三十一文字だか四文字だか分らないがその勢は目立ったもので有る。若君はあふれた水を流すよりもたやすくそのみちみちた心のたったほんの一寸したところを墨の香をこめてかきながした、やさしい手でこす□□□□[#「□□□□」に「(四字不明)」の注記]色紙を形よくあやなして居る。
   〔二行分空白〕
と云う歌を見つめながらうれしい心をしみじみと味わって居た。
 後室の披
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