つでも出られると云う様にそろったのは四日の後であった。
五日目の日、日柄も好しお天気も定まったからと云うのでいよいよ出ることになった。仰山な別れの言葉などをかわして車に乗った女達は尚残りおしげに時々車簾を上げては段々小さくなって行く館を見て居た、やがてそれも見えなくなった時には急につまみ出された様な気持で誰も話もしないので一人一人違った思を持って居た。しずかなあたりの景色や人の足音にいろいろの思の湧く女君は懐硯を出して三つ折の紙に歌や短い文などを細く書きつけて居た。女達もまねをするように紙を出したり筆をしめしたりして居たけれ共あんまり才のない女達は車のゆれる毎に心が動いてとうていものにならないのであきてしまって筆を持ちながら髪をさわって見たり、思い出した人の名を片っぱしから書きつけなどして居たので女君が、
「どんなのが出来たの、見せて御覧」
と云った時に、
「出来ませんけれ共」
と云いながら紙を出した女はたった一人か二人ほかなかった。
女達はしずかにおだやかな旅をつづけて海辺の家についた。
女君は海辺の家に行ってから二日立つまで弟君の居ることを知らなかった。
部屋も大変はなれて
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