める男と、男の命をとるまでに心強い女とお前はどっちが悪いと思う」
と云うのは自分と紫の君の事を云うのだと女にはよく分って居るので何と答えてよいかと思い迷ってだまったまんま袴のひもをいじって居ると光君は涙声で、
「お前は女だから女の味方をして『それは恋する男の方が悪いのだ』と思いながら口には出しかねてだまって居るんじゃあないかい」
 女は其れには答えないで、
「私はお察し申して居ります。私は貴方がお悪いとは決して思って居りませんけれども紫の君もお心のたしかなたのもしい方だとこの頃になって余計に思う様になりました」
 光君はよろこびにはずんだ様な声で、
「お前もそうお思いかい、どう云うわけで」
「申し上げましょう。けれ共女のあさい考えで若し間違えて居りましたらどうぞ御許し遊ばして。
 私は此の頃の姫様方があんまり音なしすぎて何でも云うことを御ききになりすぎるのをいやに思って居ります。それにあの方許りはしっかりときまった御心でいらっしゃいます。御自分には御両親がないから今にも少し立ったら黒い衣でも着ようと思って居らっしゃいますし又、御自分は人の家にかかり人になっていらっしゃる方でございますか
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