は達[#「達」に「(ママ)」の注記]手にこんなことをしゃべって笑い興じて居たけれ共二人とも別に何とも云いかえしてもくれず只柳のようにうけながして居るので張合がぬけて二人のわきにぴったりとすわりながら同じように美くしい形容をもちながらまるであべこべの心地をもって居る自分達二人の身の上を思って居た。
そこへそとからやさしい声で、
「ごめん下さいませ」
と云って入って来たのは声に似げない姿をした常盤の君で有る。
なさけないほど肉つきの好いかおに泥水のようなほほ笑みをいっぱいにたたえて片ひざをつきながら、
「只今はどうも、わざわざ恐れ入りましてす」
声は前にかわらずやさしいけれ共「その様子では可愛いどころか一寸好いなんかと思う人が有ったら天地がさかさになってしまうだろう」兄君はその美くしい眼にかるい冷笑をうかべながらこんな人のわるいことを思って居た。
常盤の君はわきに居る人をはばかる様子もなく兄君ばかりを相手にしてしゃべっては高笑いして居る。「人もなげな様子をして居る人だ。人にすかれない人にかぎって斯うだから、世の中は不思議だ」まだ年若なくせに光君はもう年よったようにこんな世間なれたようなことを思って居た。まるであくどいにしき絵をおしつけて見せられる様な心持でたまらなくむねが悪くなる。早く紫の君のあのかがやく様な姿が見えれば好いのにとはだれでもが思って居ることで有った。
「紫の君はどうしたんでしょうね。貴方は存じない?」
母上が口をきった。光君は千万の味方を得たようにその方を向いた。
「どうしたんでございましょうね、あんまり御またせ申して居りますこと。ほんとに持って居る自分のねうちよりもよく見せようと思うには仲々手間の入ることでございましょうから」
常盤の君は自分の妹の美くしさをねたんでこんなことを云う。
「それでもやっぱり女なんて云うものは、出来るだけみにくいところはかくした方がよいと思われますネー。どんなにかくしてもかくしきれないほどみにくい人はそりゃ別としてね」
自分の思ってる人をごとごと云われた口惜しさに光君はこんなぶっつけたようなことを云った、女君は自分のことを云われたときがついて一寸むっとしたが又いやな笑がおにかえって、
「何だか私の御蔵に火がつきそうになりましたワホホホホホ」
とっつけ笑いをしてこんなことを云った。
光君の、どっちかと云えば幼
前へ
次へ
全55ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング