んなことを云う。
「そんなことをおっしゃるもんじゃあありませんよ、私は何でもなくってもはたでそうきめてしまうんですもの」
 幼心な光君はまがおになって云いわけをするとそれを又からかって笑いながらからかって居る。
「貴方の姿が美くしいと云って沢山の女達が思って居ると云うことですネー。私なんかはどうかして思われようとつとめてさえどうしたものかたれも思ってくれない、たまに思ってくれる人が有ると思えば下の下のうずめの命よりなお愛嬌のある人なんかなんだもの、貴方はよっぽどまわりあわせの好い日に生れたに違いないネーそうでしょう」
「まわりあわせが好いんだかわるいんだかわかるんですか、人の思うよう思わせておきましょう」
「大変さとったことだ事、でもさとりをひらいたようでさとれないのが人間の好いところだもの」
 こんなことをいい気になってしゃべり立てて居る。
「一体女なんて云うものはいろいろ男に察しのつかないところばかり沢山有ってね」
 いきなりとってつけたようにこんなことを云い出す。
「そうでしょうか」
 光君は幼子のようにびっくりしたかおをして話をきいて居る。
「だけれども又そこが好いとこかもしれない。やたらにものをかくしたがったり、下らないことに泣いたり笑ったりほんとうに不思議なものだ、貴方はそう思わない?」
「思う思わないって、そんなことがわかるまで女の人につきあったことはないんですもの」
「つきあったことがないって、マア随分うまいことを云っていらっしゃること、あんまりつきあいすぎて何が何やら盲になっちゃった方らしいくせに」
 兄君はこんな皮肉を云ってその女のようななでがたをつっつく。
「おやめなさいよ。そんなこと、母様が何と思っていらっしゃるか」
 おじたように母の方をぬすみみるようにする。
 母君はだまってほほ笑みながら仲の好い兄弟をうれしそうに見て居る。
「ネー母様、ほんとうにそうですネー。云っちゃあ悪いんでしょうか此の人はどこまでもしらっとぼけて居るきなんだから」
「マアマア、そんなに云うのは御やめにしてネ。少しはこのごろの様子でもはなして下さいよ。私年とってからはあんまりほかの人の部屋にもゆかないんでネ」
「また母さんの年よった年とったが初まった。人って云うものは妙なもので死ぬ死ぬと云う人は死なないもんで年とったと自分で云う人は案外年をとらないもんでネー」
 兄君
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