難い乳母車には、のせない方がいいでしょう。
 小さいうちから、音楽の耳だけは作って置いた方がいいでしょうねえ。
 若し声がよかったら歌を、そうでなかったら何か楽器を、絃楽の方がいいだろうと思いますが、どんなもんでしょう。
 どうしたって、頭の明快な趣味の高い児にならせなければねえ。
 じいっと眼をつぶると、レースのたっぷりついた短かい白い着物を着て、肩まで、丁寧にした巻毛をたれて、ムクムクした足で踊る様に足拍子を取って、私に手を引かれて歩く様子が、あざやかに、目に浮いて来る。
 心の立ち勝った妹を助手として持つと云う事は、何か一生の仕事を定めて、勉める姉の身としてどれほど心強いか分らない。
 如何に弟達は、立派に又、数多あっても、何かにつけ細かに心づけて呉れるものは、妹に及ぶものはないのである。
 私は此の歓喜を永く記憶するために、この短かい一篇を記すと同時に、親切な、筆を以て、細かに、「生い立ちの記」を年毎に月毎に日毎に書き記して置きたい心がまえである。
 人中に居ると見えて見えない。
 ごたついた中になんか入る柄でないのにと私は思う。
 あの気の多い王妃などは、向うから出て来ても私
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