暁光
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)素方《そっぽ》
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去年の九月に、只一人の妹を失った事は、まことに私にとっては大打撃であって、今までに且つて経験した事のない悲しみと、厳かさを感じさせられた。
「時」のたゆみない力のために、それについての事々が記憶から、消される時のあるのを思うて、書いた「悲しめる心」は、それを見る毎に、涙がこぼれる様な、痛ましい記録となって、私の傍に残って居る。
自分が、非常に望をかけて居た者を、不意に、素方《そっぽ》から飛び出した者の手に、奪われてしまったと云う事は、どんなに私を失望させた事だろう。
その当時から見れば、素より薄らいで居るには違いないけれ共、フトその名を云い出された時や何かは、云い知らぬ淋しさに襲われて居た。
けれ共、私の悲しさをいやすべく、二親の歓びを助くべく、今まで見た事もない様な美くしい児を、何者かが与えて下すった事は、私には暁光を仰ぐと等しい事である。
二日の午前九時四十分
健康な産声を高々と、独りの姉を補佐すべく産れて来た児は、七日後に寿江子と名づけられた。
うす紅色の皮膚の
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