った。
暗い梯子を軋ませて二階へあがり、唐紙をあけたら、火鉢をかこんでカリンの机の前に主人の佐太郎のほかにサワ子と進などという、会社の争議でクビをきられた時代からの親しい仲間がやって来ていた。
佐太郎は、火鉢へ炭をついでいるところであったが、入ってゆくサエを見ると、直ぐ、癖で激しく瞬きをしながら、胸を張った坐りようで、
「どうしたかね、差入れ、受けつけた?」
ときいた。
「まだまだそれどころじゃないってさ」
サエは立ったまま襟巻とコートを古風な箪笥の前へぬぎ、火鉢のそばへわりこみながら答えた。
「――五日ぐらいすりゃ、大抵いいもんだがな」
洋服の背中を窓際によせかけ、立てた両膝を抱えた進がゆっくり云った。
「――正月は休むからね……その調子だと七日ぐらいまで駄目かも知れないね」
佐太郎は組合の関係でやられ、今は病気で保釈中なのであった。
「おまささんは?」
「正月の御馳走を買いに行ったよ。――予定よりあまして帰れば、それで俺が散髪に行けるんだがな」
皆して喋っているうちに、サエは丸い顔をしかめ足袋の踵を片手でおさえながら、
「あんたのところにメンソレない?」
と云った。
「
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