どうしたんだね」
「あかぎれ[#「あかぎれ」に傍点]がポッポして……」
 サエは体をねじって片足だけ足袋をぬぎ、踵のあかぎれへ丁寧にメンソレータムをぬりこんだ。頬などの色艶はいいサエの顔にあわせ、そのあかぎれ[#「あかぎれ」に傍点]は大きくて、痛々しかった。
 サワ子が、それを見て、
「あれ」
と羽織の袖口で口のはたを被うような恰好をした。
「どうしてまたそんなになるんだろ……」
 サエは、
「毎晩お湯に行ければましなんだけれど……」
と答えながら、足袋のコハゼをかけた。あかぎれの原因はお湯に入るひまがないばかりではなかった。佐太郎しか知らないが、サエは一日のうちに、のべにするとどっさりの距離を歩かなければならないような種類の活動をもしているのであった。
 間もなく、下で、
「おまち遠さま――おばあさん、どうかお風呂に行って下さい」
 そういうまさの声が聞え、
「ああくたびれた」
 二階へ来て、ぺたりと火鉢の前へ坐った。
「とてもひどい人でね――あのひとをかきわけるだけでもいい加減くたびれるわ。ネ」
 そう云いながら一緒に行って帰って来た満子が、手編のベレ帽をとって、外套のまま坐った膝
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