る。瀧子は、それが一番無念な気がした。
「かまやしない、私、どこまでだって頑ばる。ほかのことと違うじゃないの。それで学校やめさせるような卑劣なことをやるならやればいい」
「なんて生憎なんだろう……」
歎息するゆき子の悄然とした雀斑《そばかす》のある顔を見ると、瀧子はその弱腰を非難する気も失せるのである。あちこちで召集が下るようになってから、村役場で婚姻届の受付が殖えた。
「それと山口の場合とはちがいますよ」
瀧子はゆき子の肩をつかまえてしっかりして頂戴、とゆすぶるように言った。
「その人たちはもう結婚していたんじゃありませんか。万一の場合に遺族として法律上の手続きが完結している必要があるからそれをやったんじゃないの」
火曜日の夕方、瀧子のかえるのをどこかで待ってでもいたように、やっと浴衣に着換える間だけおいて、山口が表通りの方から入って来た。今日は彼も浴衣がけで、その大学を出たのでもないのに、藍の地に白の横縞とホーセイとローマ字がやっぱり白で出たのを着ている。これまでの闊達らしい風もなく、
「や、どうも重大なことになって来ましたな」
そこにあった号外を手にとりあげて、
「ふー
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