部補が先頭に立って、巻キャハンに顎紐といういでたちだ。
 猛烈な口論がはじまった。
「おい、やめんか!」
「馬鹿野郎! やめられるかい!」
「やめろったらやめんか!」
「そっちこそ邪魔だてやめろ!」
 その間にもぐんぐん三十のマンノーは働いて共同耕作の偉力を示すばっかりだ。いつの間にか、茶色レインコートの弁護士が畦へ出て来て、警部補とこそこそ耳うちしていたが、今度は、
「おい、ちょっと話があるから責任者が出て来てくれ!」
 誰がそんなヒッコヌキ策をくうもんか。
「用があるならそっちから云え!」
「どんな用だか知ってるぞ!」
「こら、そう騒がんで責任者を出せというのが分らんか!」
「だからそこから云えと云ってるじゃないか!」
 列全体が泥べとから動かず喚きながら、うなっている。業を煮やした警部補が、サッと手を振って合図すると一緒に七八人のガチャが、田へ一足、二足ふん込《ご》んで来た。
「入《へ》ったナ?」
「畜生!」
「うなっちゃえ!」
「うなっちゃえ!」
 ゾックリ刃を揃えた三十本のマンノーが唸りを立てるような勢で振りあげられた。
「ソラ、うなっちゃえ!」
 ワッショ! ワッショ! 組
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