合の連中は気勢をあげてつめよせる。途端にパッと雨でゆるんだ泥べとがマンノーから飛んで、一人のガチャの頬ぺたについた。
「アッ!」
 叫ぶと一緒にガチャは両手でしっかりその泥のはねたとこを押え、真蒼になってよろめいた。仲間のガチャどもは一斉にピリッとして、顔色をかえた。やられたと思ってるんだ。
 こっちからは、
 うなっちゃえ!
 うなっちゃえ!
 女の声まで混って、マンノーの波がせめかけて来る。ガチャどもは、おじ気《け》がついて、もう一歩も足をとる泥べとの中を前進して来れない。さりとて、後がこわくて、振かえって田からあがることもようしない。
 云い合わせたように、ガチャどもは色のかわった唇の震える顔を共同耕作の連中の方へ向けたまんま、一歩一歩、畦の方へと後じさり始めた。
 可笑《おか》しいやら、小気味がいいやら! 若いとめ[#「とめ」に傍点]は体じゅう燃えるような気持だ。共同耕作の三十人は、小糠雨の中を躍るようにマンノーを振りかぶり、猶も、
 うなっちゃえ!
 うなっちゃえ!
 ガチャどもを追いつめて行った。



底本:「宮本百合子全集 第四巻」新日本出版社
   1979(昭和54
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