。直ぐ引きこんだ。間もなくまた出て来て、田一枚をへだてた畦までやって来て様子を眺めていたが、共同耕作の威勢におじけて、何も云わず、外套の襟を立てて深田の邸《やしき》の方へ消えちまった。
「畜生! 手におえねえとってガチャ呼びやがるゾ!」
「ナーニ。その間にゃあらかたうなっちゃうワ!」
 とめ[#「とめ」に傍点]は、アヤ、甚のかみさん、自分という順に並んで、うなっている。
 あと三分の一ばかりでうない上げるという時、ピケに立たしてあった安さんの十二になる弟が、ドーッと竹藪から駈けて来た。
「どした!」
「来るよウ! 十人ばっか今深田の裏で自転車おりてるぞウ」
「来やがったか、畜生!」
「口惜しい!」
 甚さのかみさんまで汗といっしょにはりついた後《おく》れ毛をかき上げた。
「今ちっとだに」
「よしか、みんな!」
 安さんが泥べたの中に立って合図した。
「ガチャを田さ入れるな! ひっこぬかれねえようにかたまれ。来てもかまわねえ、うないつづけろ!」
 口には云わないが合点とばかり、今までより一層気勢をあげ、三十人が列を揃えてうないつづけた。
 やって来た、やって来た。×元村の駐在と××町の警
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