ンノーを突き、じっと安さんの指図をきいている。
「いいか、ちらばったり、自分勝手に動いたりしちゃいかねい。ガチャが来やがったからって、こっちがかたまってれば、可恐《おっか》ねえことはちっともねえんだ。女連は女連でかたまって、真中さ入れ! いいか!」
 安さんのほかに青年部の人が七八人先へ立っていよいよ三十人ばっかりが田圃へくり出した。
 とめ[#「とめ」に傍点]はアヤと腕を組み、ゴム長靴を踏みしめて進んで行く。深田の竹藪にかかる頃、シトシト雨が降って来た。
「へえ、丁度いいわ! 奴等|辷《すべ》って何も出来めえ」
 田へ出る竹藪の角で、先頭に立ってる安さんが立ちどまって手を上げ、止レの合図をした。雨にぬれる竹藪の匂いをかぎながら静かにかたまって立っている。ところへ安さんが、すぐ戻って来て、
「よウし! うまいぞ!」
と叫んだ。
「スパイ弁護士が一人うろついてやがるだけだ!」
 そら進め。今のうちだぞ。
 ワッショ! ワッショ!
 忽ち田圃へ三十人がおどり込み、東の端から、マンノー揃えてうない始めた。
 その時、茶色のレインコートを着たスパイ弁護士が深田の竹藪の方からチョロリと姿を現した
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