で、頭をつつんだ肩掛の中から白い息をたてながら並木道を歩いた。
 ――どう? お前さんの体工合。
 ミーチャの母さんがきいた。
 ――あれらしいわ。
 ――姙婦健康相談所へ行ったの?
 ――それで分ったのさ。
 ――心配することは何にもありゃしない。
 ――…………。
 若いタマーラは黙って肩をもちあげた。
 ――だってお前さん、丈夫なんだろう?
 ――そりゃそうよ。
 ミーチャの母さんは暫く黙って歩いてたが、やがておだやかな碧い瞳一杯に花の咲いたような微笑をうかべて行った。
 ――私たち、いわば国家の母さんだからね。子供だって国家の赤坊さ。安心おし。
 ミーチャの母さんは、労働婦人は、産前産後四ヵ月の給料つき休暇の貰えること、赤坊の仕度金と九ヵ月の特別哺育費が国庫から支出されること、産院が無料であることなどを、その簡単な言葉の中で、タマーラに思い出させたのだ。
 タマーラは何とも云わない。でも工場近くなると、托児所へあずける子供を自分の肩かけの中へ抱き込んで通って行く労働婦人を、今日は一種特別注意ぶかい目つきで眺めた。
 ミーチャの母さんは、工場の門の中で、背の高い、さっぱりした黒外
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