套の女に出会った。
――ああ。ナターリヤ・イワーノヴナ、今日は。
托児所の保母は、ちょっと見なおして、アンナを思い出した。
――今日は。ミーチャのお母さん。どうですミーチャは。ちっとも後のお代りが来ませんね。
――こんどは、このひとの赤ちゃんを願います。
そう引き合わされてタマーラは笑い、すこし顔を赧らめた。
――ミーチャが、今朝どうしたのか、托児所の二十日鼠を思い出したんです。そして、生きてるだろうかって心配してましたよ。
――生きてますとも! ワロージャが家からあと二匹もって来てもう子鼠が出来ましたよ、ミーチャに、見においでって云って下さいな。
ナターリヤ・イワーノヴナはクラブの横を通って、托児所の方へ行った。ミーチャの母さんは、タマーラと出勤札をとりに事務所へ行った。
その時刻、ミーチャは、幼稚園で、朝日のさす窓の前へ如露を持って立っていた。水は光って、転がって、鉢の西洋葵の芽生を濡した。[#地付き]〔一九三一年三月〕
底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷
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