、トトトトト勢よく階段を先へかけ下りて行っちまった。ミーチャだって、もう「十月の児」だ。手になんぞつかまらない。手欄《てすり》をこすって降りてゆく。(八つから十五までがピオニェールだ。それより小さい子は、みんな|十月の児《オクチャブリター》と呼ばれる。)
一番下の、大きい戸をあけると、外はひろい中庭だ。春は花壇に綺麗な花が咲くが、まだ深い雪の中から、緑色の花壇の仕切りの先が見えるだけだ。
この頃ミーチャは、いつもこの鳩のいる中庭で母さんと別れる。母さんは、工場で職場代表をやっている。いい労働婦人だ。昔風な接吻なんかしてミーチャを甘やかしはしない。
――じゃ、いっといで!
――ウン。
同志《タワーリシチ》みたいにわかれる。ミーチャは元気な眼つきで、中庭を横切り、むこうの端の建物の翼の戸をあけて内へ入った。その入口と並んで、こっちから、植木鉢が五つ並んだ明るい窓が見えた。ミーチャやその他の多勢の子供が一日暮す幼稚園の窓だ。
ミーチャと別れたお母さんは、急ぎ足で木の門を出たところで、隣りに住んでいるタマーラに会った。タマーラと母さんアンナとは、同じ菓子工場で働いている。二人は並ん
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