ら、おあがり。
母さんは、しずかな声でミーチャにそう云った。そして、
――でも、それはむずかしいことさ、なかなか……
――そう! むずかしいさ。だがその困難を征服するだけの健康と知慧のあるチビ公には何でもない。道は開いている。ソヴェトの小学校、技術学校、もっと上の専門学校が、プロレタリアートの子供にゃ、女の子にでも男の子にでも、まるで無料であいてるのは何故だね? こりゃ、プロレタリアートのチビ共、進め! ってことなんだ。
ところで今朝、ミーチャは茶をのむと急に母さんをせき立てだした。
自分で外套を着て、帽子をかぶって、先へ入口の扉のところへ出て待っている。
――どうしたのさ、急に!
――今日、きっと行くと思うんだよ。
――どこへ?
――動物園へ。インドでね、象はとても働くんだよ。母さん知ってる? イギリス人がインドで象とインド人をひどく使って儲けてるんだ。象みたことないから、先生がみんなつれてくって。
母さんが、毛糸肩掛を頭へかぶってしまうと、先ずミーチャが扉から外へとび出した。続いて父さんが出、一番しまいに母さんが出て、締りを見て、ポケットへ鍵をしまった。父さんは
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