ジャのやつ! 目玉キョロキョロさせてミーチャや女の児の方を見ながら、
 ――巻パンが入ってる。
と云った。
 ――そう、じゃ一寸見せて頂戴。
 ワロージャのポケットへ小母さんが手を入れて、引き出したのは勿論例の二十日鼠だ。ワロージャは、自然の赤い毛よりもっと赤い顔して、身動きもしないで目玉ばっかり動かしてる。ミーチャは笑いたいようだし、小母さんがこわいようだし、矢張り身動きもしないで、二十日鼠の尻尾をぶら下げた小母さんを見つめてた。
 ――ワロージャ、変だね。お前巻パンを入れといたというのに、これは二十日鼠だね。
 ワロージャがうんともすんとも云えないうちに、
 ――ナターリヤ・イワーノヴナ! ワロージャはそれに私を噛ませようとしたんです!
 短いお下髪《さげ》のアニューシャが、ワロージャを睨みつけながら泣き声を出して云いつけた。
 ――よろしい、よろしい。
 白い上被のナターリヤ・イワーノヴナは、ワロージャに云った。
 ――ワロージャ、この二十日鼠は貰いますよ。あしたっから決して巻パンと鼠なんか間違えないようにおし。ね?
 小母さんは二十日鼠をもって室から出てってしまった。あの時のワ
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