かったとき、母さんがつとめている工場の托児所へ毎日連れていってた。やっぱり今と同じに、その時分も母さんが朝ミーチャを托児所まで送ってくれた。電車はいつだって一杯だったけれど、ミーチャと母さんは平気だ。何故なら、ソヴェトでは子供と母さんだけは電車の運転手台からのっていいんだから。その托児所で、ミーチャはほかの多勢の女の児や男の児と一緒に、朝起きたら歯をみがくこと、御飯の前にはきっと手を洗うこと、自分たちで遊んだオモチャは自分たちで、あと片づけすることなどを覚えた。そこでは、白い上被《うわっぱり》を着た保母さんがいて、御飯の世話をやき、少し大きくなったら、御飯のあとでアルミニュームのお皿を洗うことも教えてくれた。
 ――フフフフフ。
 ミーチャは、歯みがき粉のアブクを口から垂らしながら思い出し笑いをした。
 あすこに「赤い毛のワロージャ」とあだ名のあるいたずらっ児がいた。いつだったか、ポケットへ二十日鼠を入れて来た。女の児をそれでおどかしては泣かせて面白がってた。すると思いがけず白い上被の小母さんが「赤い毛のワロージャ」に、
 ――ワロージャ、お前ポケットに何いれてるの?
ときいた。ワロー
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