じゅうに漣のように拡がった。
「そうそう。寒いものね。無理はないともね」
「いやあ、おばさん」
いほ[#「いほ」に傍点]は、むきに、赧くなって肩を揺った。
「本当なのよ。本当に黄色と茶色の格子縞でね、二十円もするのよ。私むざむざ渡してなんかしまうものか!」
その次、婆さんに会った時、いほ[#「いほ」に傍点]は決心して極りわるさごと身投げするような顔つきで自分から云い出した。
「ね、おばさん、あの毛布――私とても惜しくて仕様がないから、も少し辛棒して待つことにしたわ、あのひとが使わなくなる迄」
年寄の眼は、狡い、優しい輝きで一杯になった。ほうほう、いほ[#「いほ」に傍点]の毛布をいとしがること!
彼女は、勿論いほ[#「いほ」に傍点]が何時まで「毛布のためばかりに」夫のところにいてやるつもりか、忘れても尋きはしなかった。
底本:「宮本百合子全集 第二巻」新日本出版社
1979(昭和54)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第二巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「婦人公論」
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