格子縞の毛布
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)縮毛《ちぢれげ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)大|羊歯《しだ》のような
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いほ[#「いほ」に傍点]は、女中をやめた。
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縮毛《ちぢれげ》のいほ[#「いほ」に傍点]は、女中をやめた。
毎日風呂にゆき、ひびがすっかりなおると、彼女は銘仙の着物を着て、自分のように他処でまだ女中をしている国の友達や、屑屋をしている親戚を訪問して歩いた。彼女の赤い頬ぺたや、黒くてちぢれた髪に、青々した縞の銘仙着物はぱっとよく似合った。手袋も、襟巻も、そう大して古くはないのをつけ、誰もが急しそうにしている暮に、
「あなた御用があるでしょう? 私暇だから、お正月にまた来るわ。ね、そして写真一緒にとりましょうよ」
というのは何とお嬢さんのような気がしたことだったろう!
誰の目にも、いほ[#「いほ」に傍点]が女中はもう根っきり、はっきりやめたのが明になった。大概あきも来たであろう。いほ[#「いほ」に傍点]は、東京に出てから五年、土ふまずが平ったくなる程方々の台処で働きつづけたのだ。女中をしないとすれば、次に、彼女は何になるというのだろう。
屑屋の叔母が、或る日いほ[#「いほ」に傍点]を、靴なおしの兄の家に訪ねて来た。靴底に、金の減りどめを打ちこむトントン、トントンという音に合わせて叔母は、いほ[#「いほ」に傍点]に一番適切な話をした。
「お前さんに頃合いな人があるよ、軍人さんところで、従卒をしている人、三十だって。貯金もあるそうだよ、それに勲章まで持ってるんだって」
屑屋の叔母は、自分の娘のようにいほ[#「いほ」に傍点]の世話をした。いほ[#「いほ」に傍点]は、南洋の大|羊歯《しだ》のような飾ピンをさして、勲章持ちの従卒だという男のところへ嫁入りした。
正月に、友達と写す筈だった写真を、夫婦で撮る時、いほ[#「いほ」に傍点]は夫に云った。
「お前さん、勲章何故下げないの? 似合うわよ、その装《なり》に」
夫は、変な顔をしていほ[#「いほ」に傍点]を見たが、急に威勢よく帽子をぐいとかぶり答えた。
「ちょいとその――今ここにゃあないのさ!」
いほ[#「いほ」に傍点]の夫になった男は、脊の低い、元気な、
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