のであった。
もう締めて横になろうとした時、計らず一つ妙案が浮んだ。自分の家の物干だあもの、洗濯物の金盥を持って、水口から登ろうと、二階から出ようと誰に苦情を云われる義理はない訳ではないか。五月蠅《うるさ》がって出るのは彼方の勝手だ。――決心に満足を感じ、せきは誰|憚《はばか》るところない大欠伸《おおあくび》を一つし、徐ろに寝床へ這い込んだ。
二階から聞えて来る合奏は、いつか節がかわった。葡萄酒が少し廻って来たジェルテルスキーとエーゴルは、互の楽器から溢れる響に心を奪われ、我を忘れてマズルカを弾いていた。ダーリヤとマリーナの頬は燃えた。二人の女は寝台に並び、足拍子を踏みつつ、つよく情熱的に肩を揺って手をうった。
底本:「宮本百合子全集 第三巻」新日本出版社
1979(昭和54)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第三巻」河出書房
1952(昭和27)年2月発行
初出:「女性」
1927(昭和2)年7月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2002年9月25日作成
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