、ジェルテルスキーは意外さと漠然とした当惑とで、
「おお」
蒼白い顔を少し赧《あか》らめた。再び金髪をかき上げる暇もなく、彼はブーキン夫人の有名な饒舌に捕まった。
「ああ、レオニード・グレゴリウィッチ! お目にかかれて何て仕合せだったんでしょう。さ、どうか早く下りて来て私共の相談相手になって下さい」
交際で、ジェルテルスキーはもうブーキン夫人を取扱うこつを心得ていた。彼は、内気そうな、同時に頑固そうなところもある微笑を浮べながら、先ず黙って、さし出された対手の手を握った。
「いかがです」
次に彼は、傍《かたわら》に立っている、太ったマリーナ・イワーノヴナに挨拶した。いつも傲然と胸をつき出し、ジェルテルスキーを子供扱いにしているマリーナ・イワーノヴナが、今日はどうしたことか、彼の挨拶に、うなずいて答えるのだけがやっとらしい有様であった。それを、ブーキン夫人が尤《もっと》もだ、尤もだというように、吐息をついて眺めた。
「ねえ、レオニード・グレゴリウィッチ、マリーナ・イワーノヴナが何ともお気の毒なことになりましてね、私、御相談を受けて友達甲斐にお見捨てすること出来なくなったんですよ、マ
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