たアメリカ型の外套を着たまま椅子にかけている松崎は、陽気にふき出した。
「なあーんだ! ハッハッ愚にもつかないことでいい年をしながら啀《いが》み合っているんだな――それにしても、君んところ、狭いのに大変ですね」
「大変です、寝床低い、それだけ石油沢山いります」
 日本語で云って、ジェルテルスキーは額を赧らめ、内気に笑った。マリーナが来てから、寝台を二人の女に譲って、彼は畳の上で寝ていた。布という布をかけても、冬のとっつきの寒さで眼が覚めた。誰が代を払えるのか当のつかない石油がそれ故夜|中《じゅう》、ストウブの中で燃やされるのであった。
「いつまで置くんです?」
「さあ――今に帰るでしょう」
「どうも、何だな、そういう点が日本の女と外国の女との偉い違いだな、君、日本の女だったら自分の夫に立て替えた金が返らないって、友達の家へころげこむ者は無いですよ、それに、置いてやるものもまあ無いね、私だったら、どやしつけて帰してやる。ハッハッハッハ、君は、義侠心が豊富だとでも云うのかなハハハハ」
「――私は頼まれると断れない気質です――弱い――気が小さいです」
 ――外事課高等掛を友人に持つというのは
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