雷に打たれて死ぬ人さえあるんだものね。でも、私たった一つ諦められないのは、エーゴルをあんな恐しい男にしてしまってくれたことよ、ダーシェンカ。……元を知っている私にはやっぱり離れられない……私共はね、ダーリヤ・パヴロヴナ、二十二年一緒に暮して来たんですよ……」
しんみりしたマリーナの話をきいているうちに、ダーリヤはこれまで知らなかった深い悲しみがマリーナの心にあるのを知った。彼女はそうとも知らず他の友達と茶をのみながら、
「さ、アーニャ、お前のみなさい」
「はい、叔父さん」
エーゴル・マクシモヴィッチと哀れな姪の真似をして大笑いした自分達を私《ひそ》かに恥じた。ダーリヤは、真心から動かされて、対手の手を執った。
「マリーナ・イワーノヴナ、だあれもあなたがそんなに悲しい方だとは知らないでしょう、きっと。――若し、私、あなたに思いやりのないことをしていたら許して下さいね」
マリーナは、合点合点をし、ダーリヤの滑《なめ》らかな血色のよい頬を情をこめて撫でたたいた。
「可愛いダーシェンカ、あんたは優しいいい娘さんですよ、――どうか立派な児供が生れますように」
妊娠のために感じ易くなってい
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