に――余り碧いんでおしまいにゃ気味が悪くなって引下っちゃった」
「ふふふふ、おかしなおばあさん、二階で嚏《くしゃみ》してるわよ、今頃」
凝《じ》っと二人の話をきいていたうめが、その時、いかにもませた調子で、
「ちょっと! 来ますよ」
と警告した。成程、誰かが階子を一段ずつ念入りに降りて来る跫音《あしおと》がする。志津は、一寸肩をすくめるようにして舌を出す真似をした。
「ふふふふ……」
婆さんも釣込まれて薄笑いしながら、新しい煙草をつめ始めた。うめは、障子の隙間から板敷を覗いている。その後姿を見、志津はやがて、
「あーあ」
小さい欠伸《あくび》をしながら、
「もう何時?」
と云った。
「日が短い最中だね、四時一寸廻った頃だろう」
うめが、二人の前に顔をさしつけて、
「女の異人さんですよ、よその」
と云った。が、誰も答えず、志津が、立ち上って腰紐を締めなおしながら、
「どう、おばあさんお鮨《すし》でもおごろうじゃあないの」
と云った。せきは、上の空で、
「そうさねえ」
と応じながら、熱心に志津の八反の着物や、藤紫の半襟を下から見上げた。
「――その着物、さらだね」
「おばあさんにゃ
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