―何してるんだか――なに、この家だって、第一変てこれんな洋館まがいになんかしないで、小気の利いた日本間にしといて御覧、いくらバラックだって、この界隈のこったもの、女一人位のいい借り手がつくのさ。――仕様がありゃしない、半年も札下げとくの、第一外聞が悪いやね」
「だって書生さんなんかより異人さんの方がよかないの、金廻りがいいそうだもの」
 せきは、
「どうして!」
と、顔じゅう顰めて首を振った。
「とてもだよ。出たり入ったりにうめの顔飽きる程見てたって、キャラメル一つ買って来るじゃないからね」
 間をおき、更に云った。
「第一、気心が知れやしない」
 志津は、
「ほーら、そろそろおばあさんの第一[#「第一」に傍点]が始まった」と笑った。
「本当だよ、嘘だと思ったら見て御覧、我々なら大抵まあその人の眼つきを見りゃ、腹で何思ってるか位、凡《およ》その見当はつくじゃないか。二階の異人さん、こないだも私、どんな気でいるのかさぐってやれと思って、台所へ水汲みに来た時、世間話してやったのさ。喋りながら一生懸命眼を見てやるんだが――困ったねあのときばかりゃ、お前ただ変てこりんに碧いばっかりでさ――本当
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