をあけて下を覗いた。ブーキン夫人が真先に靴をぬいで階段に足をかけ、彼女に向って身振沢山に手を振った。
「おお、おお、あなたは本当に仕合せものよ、可愛いダーシェンカ! こんな天気に外を歩いて来て御覧なさい」
次いで、マリーナ・イワーノヴナ、最後にジェルテルスキーの長い脚が、左右、左右、階段の上に隠れるのを見届けると、下の小さい娘は自分達の部屋へかけ込み、息を殺して、
「お婆ちゃん、三人、異人さん」
と報告した。
三
長火鉢をはさんで姪《めい》の志津と話し込み、せきは孫の報告をききつけなかった。
「だからさ、そりゃ私みのるさんの覚悟が悪いって云ったのさ。義理にもせよ阿母さんだと思えばこそ、善ちゃんが自分の稼ぎで寒いめもさせないんだからね。孫の看病位お前……」
「おばあちゃん!」
うめは、祖母の黒繻子の衿《えり》にハンケチをかけた肩にもたれかかって押した。
「三人ですってば、異人さん」
「分りましたとさ」
長火鉢の向う側から、志津が云った。
「いい門番さんがいるのねえ、おばあさんとこ」
せきは、長火鉢の縁で煙管《きせる》をはたき、大人の女でもみるような風に六つの
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