ろう。然し、自分達の墓のある土地で彼等が生きつづける――どうしてそんなことが夢見られよう! ダーリヤ・パヴロヴナ自身にさえ、彼女の一生は地球儀のどの色で塗られている場所で終るのか、予想もつかないではないか。地球の面の広さ、そこに撒かれた自分達の生活の何とも云えず拠《よ》りどころなき立場――。ダーリヤ・パブロヴナは、今日のような曇った空の下によせている一つの海を想い出した。
彼女は敦賀行汽船の最低甲板から海を眺めていた。海はあの埃をかぶったスレート屋根の色をしていた。タブ……タブ……物懶《ものう》く海水が船腹にぶつかり、波間に蕪《かぶ》、木片、油がギラギラ浮いていた。彼方に、修繕で船体を朱色に塗りたくられた船が皮膚患者のように見えた。鴎がその檣《ほばしら》のまわりを飛んだ。起重機の響……。
ダーリヤの、どこまでも続く思い出を突然断ち切るように、階下で風に煽られたように入口が開いた。
「あら、これ、家の娘さんですの、悧口そうな眼つきだこと……何ていう名なのお前さん」
「我々の言葉を理解しないんですよ、ちっとも」
レオニード・グレゴリウィッチのそれは声だ。ダーリヤは、いそいで階子口の襖
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