務的のもので、総ての問題を超えた奥に一貫して自分を支配する力である。自分を生かせて呉れるものであると同時に自分を殺すものでもあるその力に働かされて、自分は止まれぬ渇望から、ささやかな努力と祈願とを、芸術の無辺際な創造的威力に捧げているのである。
 この間中、田舎に行っていたうち何かで、或る作家が、女性の作品はどうしても拵えもので、千代紙のようでなければ、直に或る既成の哲学的概念に順応して行こうとする傾向がある、と云うような意味の話をされた事を読んだ。
 これは新しい評言ではない。
 女性の作家に対して、屡々《しばしば》繰返された批評である。
 認識の範囲の狭さ、個性の独自性の乏しさ、妥協的で easy−going であると云うような忠言は、批評の一種の共有性であろう。
 或る人は、そんな事はあるものか、男の人は負け惜みが強いからそんな事を云い度いのだと、云うかもしれない。けれども、この間、右のような言葉を見た時、自分はひとごとでない心持がした。
 考えずにはいられない心持に成った。種々な偏見や、反抗を捨てて、凝っと自分の仕事を見詰めると、少くとも自分は、正直に、成っていない事を直覚せず
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