子さんも、文学的な話の相手にはなれないんだってさ。――どっかに写真があったっけ」
 瑛子は手箱をひっぱり出して、封筒やハガキの間から、むき出しで入っていた小さい素人写真を出した。自分でちょっと眺めた後、唇の上に微かな軽蔑に似た表情を現しながら宏子の前によこした。手にはとらず、テーブルの上へ斜かいにおかれたままの写真へ宏子は暗い眼差を落した。
 夏草の中に佇んでいる田沢と細君とが撮っていた。背広を着てカンカン帽をかぶっている田沢の眼鏡の隅がキラリと日光に反射しているところが、宏子が好きになれないその人物の性格を表現しているようで不快であった。麻か何からしい少しだぶっとした単衣を着た小柄な、二十をほんのすこし出たばかり位の瘠せぎすな細君が、重心を片方の脚において、並んで立っていた。口許や額は淋しいひとのようだが、こもったような情熱が肩の落ちたその躯つき全体に溢れているのである。瑛子がわきから見ながら、
「貧弱なひとだねえ」
と云った。宏子はその言葉から残酷さを感じた。宏子は、やっぱり写真を手にとらないで、
「これ――誰がとったの」
「僕が田沢さんとこの裏でとってあげた」
「じゃ自分のとこへ
前へ 次へ
全75ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング