んと仰向けになりながら、
「あーあ、三田先生、か!」
と何かを自分の心から投げすてたような声の表情で呟いた。
「要するに先生[#「先生」に傍点]なんだなあ」
「あの先生は、ああいうところがあるわよ、自分のものわかりのいいところが自分ですきなんだもの」
 宏子も、むしゃくしゃしている早口で云った。
「友愛結婚の話のとき、私たちの質問をあの先生は分ってなかったわよ。リンゼイは折角キリスト教道徳の偽善に反対しながら、なぜ子供を生むことも出来ないようなアメリカの社会の事情まで研究して行かないんでしょうって私たちきいたでしょう? あの先生は、リンゼイがアングロサクソンだからそういう気質なんでしょうって云ったでしょう? そこなのよ!」
 徳山のような学生は溜息をついて、
「私、涙が出そうんなったわ」
と云った。
「三田先生、本当はあんなこと云いたかなかったのよ。……カキが頑張ってるんだもの、……なんて口惜しかったんでしょう、ねえ、そう思わない?」
 宏子にはそういう感じかたは出来ないのであった。
 夕飯後に、はる子が部屋へ来た。上瞼の凹んだまるで白粉っけのない顔で、癖で少し右肩を振るようにしながら
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