うかそれだけは云って頂戴」
「本当にそうだわ、飯田さん、しっかり云ってね」
徳山が、首をまげるようにして力を入れた。
「私たちの級では、三田先生に留任してもらうようにって要求を出したんだから、そのことも云った方がいいわ」
土曜日の会には全学生の三分の二ぐらいが出た。学校の側からは柿内が出ている。三年の幹事が司会をした。窓際から三列目のテーブルに杉と並んでかけている宏子の眼のうちには、会の進行につれて消えてはまた燃える小さい火のようなものが閃いた。会場全体には、尊敬する三田を公然とテーブルの中央に眺めている単純な安堵の気分と、幾らか儀式っぽい皮肉な冷静さが交流していて、自分の心にある憤懣、学生の胸にあるいろんな気持が、そのままちっとも真直ぐあらわされていない。宏子にそれがもどかしかった。
下の級から順に挨拶をして、飯田の番になった。飯田は大体たのまれた通りの意味を云ったが、言葉づかいは彼女流に角を削られた。「心から反対だわ」と云ったところが、「まことに残念でございます」と言われている。司会をやっていた三年生が挨拶のあとにつづいて、このほかに各級には一言ずつでも直接三田先生に感謝やお
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