へ、学校側が、三田先生の送別会を来る土曜日の放課後、通学生食堂で開催、会費十五銭という予告を出した。
 各幹事ハ打合セノタメ至急庶務ヘオ出デ下サイ。
 告知板の前で、はる子が目立たない程のつよさで傍にいた宏子を小突いた。宏子にははる子の気持が通じた。それを読んで立ち去る学生の中で、
「でもまあ少しは良心があるのね、送別会だけはやらせるんだから……」
 些か憂さの晴れたように云っているものもある。
 第一時間目の終りのベルが鳴って、宏子の組が立ちかけた時幹事の飯田が、
「あの、ちょっと」
と、今日は自分から教壇の横へ出て、
「あの、土曜日の放課後、三田先生の送別会のあることは御承知と思いますが、三田先生のお気持で、もう級別の送別会はおことわりになるそうですから、どうか皆さん御出席下さいということです」
と爽かに述べた。
 前列にいた一人が、思わずも口に出た調子で、
「誰がそう云ったの」
ときいた。
「カキさんよ」
 飯田は、相手の級友の顔を眺めて自分も気取りをなくしたふだん声にかえって云った。級じゅうに不満と皮肉とがぼんやり感じられた。
「あのそれから、送別会では各級の幹事が挨拶するんで
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