ってその前半だけでねじこまれた言葉、
「そりゃ、おさわがてきぱきしていないから君のような活動家に不適当なところのあるのは僕もわかるが――」
片手で例の唇の両端をさわりながら、泰造は真情をもって、
「だが、子供達には母がいる、父よりも母がいる、まあ考えてくれたまえ」
と云ったのであった。
瑛子はさわ子に対する同情と軽蔑、勇蔵に対する不信用、どちらも隠さず面に出して、
「あなたがそんなに怪しいと思うんなら、私立探偵でも何でも勇蔵さんにつけたらいいじゃありませんか」と云った。「そして、あなたの気がすむように、社会的地位を傷つけるなり、法律上の手段をとるなりしたらいいじゃありませんか。私ならそうする!」
それを云う瑛子の調子の中には、さわ子に向って云ってはいても、二人の男に向けられている威嚇がはっきり響いているのであった。泰造はチョッキのところで細いプラチナの鎖をいじりながら、妻の声と眼の中にもえている威嚇の意味を明瞭に感じて聞いていた。
瑛子が本当にいざとなったらそんなことをもする女である。そのことを泰造はいろいろなことから知っている。勇蔵は、朝剃った頬のあたりが夜半になった今は少し
前へ
次へ
全75ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング