っている。
「どうだった、会えた?」
と宏子は当らずさわらずに訊いた。
「会えたわ。三田先生だってやめたくなんか、ちっともないのよ」
徳山が意気沮喪したように片手をあげて自分のおでこを擦った。
「でも――」
「そりゃ三田先生としては、自分の立場として皆おとなしく勉強してくれとしか云えないにきまっていますよ」
はる子がつよい口調で云った。
「宗教問題が絡んでいるのよ。三田先生、あっちにいた時教会を脱退したんだって。それが問題になって、ミス・ソーヤーなんかが理事会でごねたらしい。勿論民公がたきつけているのさ」
「ここは神学校じゃないわ」
激しく一人が云った。
「三田先生を惜しがるのがいけないんなら、もっとどしどしほかに新鮮な先生を入れてくれればいいじゃないの。お祈りしちゃ啀《いが》み合っているなんて、それこそ矛盾《ムジン》してる!」
皆苦笑いした。カキはいつも矛盾をムジンしているというのである。
次の日は、予科が三田を訪問した。宏子の組では、その日の第一時間目が戸田だったので、十五分間貰って、三田を訪問した次第を教室で報告した。そして、この組として三田の留任を要求する意見をまとめ
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