理で不愉快に思われているのに、やめさせる理由としてリンゼイの説を三田が学生に説明したことがあげられたという一事が感情の激昂をつのらせた。教室には自習を始める気分など無かった。大半の学生が席にかけたまま体をねじって円をこしらえ、その事件について喋り出した。徳山のように女学生らしい崇拝から三田の不当な馘首を怒り悲しむもの。学校政治の内輪もめに、そんな思想的なような口実をこじつけようとする学校の遣り方を憤慨する者。いろいろではあったが、学校が学生たちや教師をこんな事でまで圧えつけようとする事に対する反撥は、それ等すべての感情を包括する学生生活というものへの一つの公の不満なのであった。
「私くやしいから石川民公の時間なんぞ、出てやらないからいいわ!」
徳山が涙を指先で拭きながらそう云った。
「そんなことすりゃ、民公ホクホクだわよ。よろこんであなたを落すだけだわ」
井筒が腹立たしそうに答えた。
「ねえ、だって、何とかならないのかしらん。どうして三田先生おとなしく引っこんでるんでしょう。ねえ、どうしてそんなことはいやだと頑張らないんでしょう。ねえ、三田先生だって私たちがこんなに思ってるのがわか
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