ある。
「よ、聞いていらっしゃいよ、ただ待っちゃいられないもの」
声々に後を押されるようにしてドアの外へ消えた飯田は、すぐ戻って来て、
「欠席ですって」教室じゅうを見廻しながら、告げられたことをただ伝えるという顔で云った。
「自習にして下さいって」
「じゃ、いよいよ本当なんだわ、まア! どうしましょう」
「何て滅茶なんでしょう」
「今更あんなことを口実にするなんて、卑怯だわ。生徒に人気があるのがいけないんなら、戸田先生なんかどうするの。リンゼイどころじゃないじゃありませんか。随分馬鹿にしてると思うわ!」
三田がやめさせられるようになった真の原因が、教師間の勢力争いであることは、学生達にも推察された。第一代の校長の死後は、古参卒業生で教師をしている者の間から校長が就任するならわしで、現校長の沼田美子の派と次の校長を目ざす石川民子の派とは陰険に対立していた。石川がバッサア女子大学の学位しか持っていないのに、新帰朝の三田がバルティモア大学の学士を持っている。その三田は沼田の後輩である。それだけでも三田の立場が難しくて危いことは予想されるのである。
学生たちにはそういう葛藤が日頃から不合
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