困ったように杉は黙りこんでいたが、
「あたし、ちっともナイスガアルなんかじゃないわ」
内気な中に譲歩しない口調で、やっぱり秋田訛を響かせてねばっている。宏子は、枕の上に片肱ついて半身起き上りながら、この不器用でいて、しかもこういう学校生活の間では相当な意味をもっている問答に聞耳を立てた。杉が断り切れるか、どうか心配のようでもあった。杉は地方のミッション・スクウルからの習慣でずっと礼拝に出ていたのだが、三週間ばかり前からそれをやめた。戦旗の読者になったばかりなのであった。
礼拝に行くことをすすめているのは、宏子たちの級の幹事をやっていて英語会話会員《イー・エス・エス》の飯田満子の声であった。
「ここにいる以上ミス・ソーヤーに睨まれたら損よ。たった四十分じゃありませんか」
「……だから、あなた早く行っていらっしゃいって云うのに――」
「私またきかれたら何て返事したらいいの? あなたの行かない理由さえきかして呉れれば私一人でだって行くわ」
短い沈黙の後、戸のこっち側で聞いていてさえその瞬間杉の小じんまりした顔がパッと赧《あか》らんだのがわかるような調子で云った。
「あたし、あんな礼拝、
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