ツだとわかると、どうしたわけか、外側にいた一人が、返事もしないで、すっと大きい娘のむこう側に隠れてしまった。
フランツは、少し寒くなって来た暗がりの中で苦笑いした。暫く経ってから、彼は此方側にいる雀斑の娘に云った。
「お連れになろうよ。その籠をお出し、持って上げるから」
その娘は逃げない代りにまるで無愛想な口調できっぱり、
「いや!」
と断った。そして、益々空いた片手を振りながら、真正面を見て、歩きつづけた。
「いやよ、私触っちゃいやよ。――ガスタブがお前は悪魔だって云ったわよ」
フランツは、小さい娘をじろりと見て、肩を揺った。娘は、止めどがなくなったように、また云った。
「ガスタブばかりじゃあないわ、みんなそう云ったことよ。お前みたいに――うう、時計屋の子の癖にそんな――イエス様みたいな顔をしているなんて、てっきり悪魔に違いないって。だから私」
娘は睨むようにフランツの顔を見た。フランツはおどろいて娘を見た。
「触ってなんか貰いたくないの」
二三歩、小娘は、こわさを我慢してしゃんしゃん歩いた。が、フランツが一寸手を動すと一時に「わーッ」と声をあげ、三人一度に転るように彼の傍
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