しはもう作家になっていた。
先ず生きること、と思うのはわたくしの生れつきなのであろう。
苦しみ
母親は息子を育てる。苦しみ、案じ、労わり、可愛がって。
息子は漸く大学を卒業する。そこで母親は嫁貰いに骨折る。
息子は結婚すると、自分たちの若い世界へ出てゆく。母を離れて。
その息子の後姿を見る母親の心には、安心と寂しみがあるだろう。そして、きっと、或る不満を抱くに相違ない。
一つの作品は、わたくしにとってちょうどその息子のようなものだ。それ故一つの作品に対する苦しみも愛も、息子に対する母親の苦しみや愛と同じだ。そして一つの作品を書き上げた時のわたくしには、安心と寂しみと不満とがある。ちょうど、育て上げた息子が嫁をつれて出てゆくのを見送る母親の心のように。
厭い
わたくしは、わたくしの書くものを、変な興味をもって読まれるのが何より厭だ。わたくしも人の作品を読む時、そういう興味をもつことはあるけれど。――詰り、実際上の出来事と作品とを結びつけて読まれるのは、読む人に作品の理解がない限り、厭なことだ。
わたくしには、わたくしが女であるための
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