げ終わり]
などと、とりとめのない事を考えて居ると、水口の油障子が、がたごと云って、お金が帰って来た。
薄い毛を未練らしく小さい丸髷にして、鼠色のメリンスの衿を、町方の女房のする様に沢山出して、ぬいた、お金の、年にそぐわない厭味たっぷりの姿を見るとすぐお君は、無理な微笑をして、
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お帰りやす
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と云った。
一通り部屋の中をグルッと見廻して、トンと突衿をすると一緒に、お君のすぐ顔の処へパフッと座ったお金は、やきもちやきな、金離れの悪い、五十女の持って居るあらゆる欠点《けってん》を具えた体を、前のめりにズーッとお君の方に延《の》しまげた。
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誰《だ》あれも来やしなかったろうね。
時にどうだい。お前は、
ほんとうに、もうあきあきするほど長い事《こ》っちゃあないかい。
もうあの日っから、何日目になるだろう。
こおっと、
あれは――何だったろう、お前、先月の十一日頃だったろう、
それだものもうざあっと、一月だよ。
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自分の、すぐ眼の上で、ポキポキと音の出る様に骨だらけな指を、カキッ、
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