で身のまわりの物の値踏をしはじめた。
 この着物も、本場なら六十円を下らないが、一寸でも臭さければ、私にだって着られる。
 この指環だって、ここに一つ新ダイヤが入って居ようものなら、八百円のものは、せいぜい六七十円がものだ。
 写真で、真《ほん》ものと、「まがい」の区別はつかないから都合がなるほどいいものだ。
 着物だの飾り物に、ひどい愛着を持って居るお君は、見も知らない人々が、隅から隅まで隆とした装で居るのを見るとたまらなくうらやましくなって、例えそれが、正銘《しょうめい》まがい無しの物でも、自分の手の届くところまで、引き下げたものにして考えて居なければ気がすまなかった。
 少しは読み書きも明るいけれ共、根《こん》のないお君は、ズーッと写真だけ見てしまうと、邪険に、雑誌を畳に放り出して、胸の上に手をあげて、そそくれ立った指先を見て居た。
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 こんなみじめな指《ゆび》をして居ては、若し、さっき彼の人のはめて居た様に、いい指環があったにしろ、気恥かしくて、はめられもしない事だろう。
 ああ云う着物が山ほど有っても、寝て居るんじゃあ、お話にもならない。
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